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あがり症は病気なのか!?人前であがってしまうメカニズムを詳しく

「あがる」という現象は、人前で何か発表しなければいけない時、自分に注目が集まる時に沸き起こるひとつの生理現象といえます。

また一説には日本人の約80%以上の方が「人前で何かを話すこと」に苦手意識を持っていると言われており、程度の差はあれ、大半の人が様々なシーンで「あがる」ということを経験しています。

タイトルにある「あがり症は病気なのか」ということですが、私個人の見解では、あがり症を病気と考えるよりも、人にはあがりやすい気質や傾向があり、そうした気質や傾向を持つ人があがりやすい状況に遭遇した時に、条件反射のように「あがってしまう癖」があがり症であると考えたほうがいいのではないかと思っています。

つまり「あがり症は病気ではなく人が持つ癖」であり、場合によってはその癖が悪さをしてしまうということです。

しかし、あがり症を軽視することはできません。あがり症の背景には対人関係に対する不安があり、その状態が慢性化し重症化することで生活に支障をきたしてしまう可能性が十分に考えられるからです。

あがり症に似たもので、人前で何かを発表したり披露したりすることに対して著しい恐怖や不安を感じてしまい、その結果、生活の質を低下させてしまう「社交不安障害」という心の病気がありますが、この社交不安障害の前段階としてあがり症の存在を指摘する専門医もいらっしゃいます。

ではどうして人前であがってしまうのか、あがってしまうメカニズム、そしてメカニズムに基づいた社交不安障害へと発展させないための予防策について見ていきたいと思います。

自分は本当に「あがり症」なのか

海外から見ても比較的日本人は、人前で何かを発表しなければいけないというシーンが苦手で、その背景には「あがり症」が大きく関係していることは間違いありません。

しかし仮にも、自分のことをあがり症だと認識している人が日本人に多くいるのであれば、あがり症であることは特別なことではなく、むしろ日本人らしさ、それもまた個性のひとつとして捉えることができるはずです。

ところが実際のところは、あがり症であることをコンプレックスに感じていたり、「あがること」を良しとせず「あがらないこと」が尊ばれる風潮が感じられます。

こうした状況から本当はあがり症ではない人も、もしかしたら自分はあがり症なのかもしれないと思ってしまっている気配があります。

本当のあがり症というのは、他人から見ても明らかに普段の様子とは異なって映ります。発表している最中にしどろもどろになり、声のトーンも安定せず、時にはその場に倒れこんでしまうケースもあります。

たとえ自分があがり症だと思い込んでいても、他人から見て、あがりらしい気配が感じられなかったら、それは思い込みにすぎません。

自分が自覚している状況と、他人が見ている客観的な状況は、あくまでも別物として考え、「あがる」という生理現象を正しく理解することが求められるのです。

人前であがってしまうメカニズム

あがり症で悩む人の多くは、「あがり症は自分の性格であり精神的な弱さに原因があるのではないか」と思うことでしょう。

確かに日本人は欧米の人と比べれば不安を感じやすい遺伝子を持っており、また文化的な背景から見ても、あがりやすい状況を育んできたと言える部分があります。

ただ「あがる」という現象は人間が生まれ持った本能的なものなので、この部分を完全に無くすというのは難しいです。

歌手や歌舞伎役者など、大舞台でパフォーマンスすることが仕事の彼らであっても、やはり緊張してあがってしまい、歌詞を途中で間違えてしまったり、台詞が出てこなかったりすることもあります。

また、相対する相手によって緊張してあがってしまうこともあります。都道府県のトップである知事を長年務めた方が、天皇・皇后主催の園遊会で今まで感じたことがないくらい緊張してあがってしまい、スムーズな受け答えが出来なかった経験を話していたことがありました。

つまり人間であれば、大なり小なり「あがる」というのは致し方がないことなのです。

ではどうして人はあがるのでしょうか。

ポイントとしてはふたつあります。

脳内の警戒機能との深いつながり

あがりは本能的なものなので、脳内における警戒機能と強い結びつきがあります。

例えば、初対面の人と会って話す時、初めて経験する場所やシチュエーションでスピーチをしなければいけない時、それは自分自身にとって何もかも初めての経験なので、脳内では警戒モードに突入します。

脳内が警戒モードになることで生理的覚醒が起こり、交感神経が優位に働き心臓のドキドキが速くなり、発汗も増え、声が震えたりします。このような身体症状はあがっている人に見られる特徴でもあります。

つまり「あがる」とは警戒モードに突入した証であり生まれ持った合図なのです。

失敗した記憶による足かせ

誰でも最初からうまくできる人というのは存在せず、失敗を繰り返しながら上達し、成功に繋がっていきます。

成功した体験というのは嬉しいものではありますが、記憶に関して言えば、成功体験よりも失敗体験のほうが脳に深く刻まれます。さらに言えば、その時に恐怖や不安などのネガティブな感情を伴っている場合はなおのこと忘れにくくします。

あがりを認識しやすい時期として思春期が挙げられますが、この頃というのは自意識が芽生え、他人から自分がどのように見られているのかを意識し始める時期でもあるので、この時期に「人前でうまく発表できなかった」、「大勢の前で恥をかくようなことをした」などの経験が、あがりを強めてしまうきっかけになってしまいます。

人間というのは自分の身を守るために学習して行動する生き物です。学習機能があるからこそ、安全な生活を営むことができています。

しかし学習という機能がマイナスに働いてしまうと、過去に経験したネガティブな出来事と似た出来事に遭遇した時に、反射的にその時感じた不快な感情が沸き起こり、その感情に同調するかのように脳内では警戒モードに切り替わるのです。

この警戒モードに切り替わる閾値が低いほど、あがりやすい状態になっています。そしてあがってしまうことで緊張をより強め、不安を生み、自分があがってしまう状況を回避することで成功体験を積むことができず、失敗体験がいっそう色濃く残ってしまいます。

あがり症と社交不安障害の違い

あがり症と似たものに「社交不安障害」があります。ただ注意してほしいのがあがり症=社交不安障害ということではありません。

現に当事者側の大方の意見として、あがり症と社交不安障害はイコールではないことが示されています。

ここではあがり症と社交不安障害の違いについて見ていきたいと思います。

多くの人があがっている状態を認識しやすい例として、人前で何かを発表することが比較的多く取り上げられます。やはり大勢の人を前にすると生理的覚醒が起こり、心臓がバクバクして、発汗しやすいからでしょうね。

毎回そういった機会であがってしまうことで「自分はあがり症である」という認識を持ち、あがってしまうのは性格や気質的なものという結論を出しやすくなります。

一方で、社交不安障害には人前でスピーチすることに対して著しく恐怖を感じる「パフォーマンス恐怖」や「聴衆恐怖」、「演説恐怖」というものが存在しますが、これも「あがる」という状態が大きく関わっています。

捉え方次第では、あがり症も社交不安障害もそんなに違いはありません。

しかし注目するべきところは、その発表までに取る行動、そしてその後に感じる気持ちです。行動様式をつぶさに見ると、「あがり症」と「社交不安障害」には違いが見て取れます。

どういうことかというと、あがり症の場合、人前で何かを発表する直前に強い不安を感じることはありますが、話している最中は意外にもしっかりと話せていることが多いです。本人は声の震えやボリュームについて心配しているかもしれませんが、周りの人は意外と気にせず話の内容を聞いているもので、話し終えた時に周りから賞賛されることもあります。

話し終えた後は気持ちがふと楽になって、いつもと変わらない状態になっています。そしてその後に続く人の話をしっかり聞けるくらい心は落ち着いているのではないでしょうか。

ところが社交不安障害の場合、あがり症と同様、直前にも強い不安を感じますが、人前で発表することが決まったその瞬間からずっと強い不安を感じます。

厳密に言えば予期不安が強すぎて、発表するまでの間に不安がどんどん大きくなってしまい、そして不安のタネが解消されるまでずっと不安に苦しむのです。

例えば、3カ月後に何か人前で話す機会があったとします。社交不安障害の人は発表までの3カ月間絶えず不安を感じ続け、不安が強すぎることで他にやるべきことがあるにもかかわらず、ほとんど手がつけられない状態になってしまうことも少なくありません。

また話している最中にパニック発作を伴うこともしばしばあり、ひいては話を最後まで続けることが出来なくなってしまいます。結果的に、話し終えたときには「恥の意識」が強く残り、その後に続く人の話は頭に入りません。そして自分の不甲斐なさをいつまでも責め続け、もう惨めな思いはしたくないと回避行動を取って、人生の質を低下させるのです。

ただあがり症と自覚している人でも、社交不安障害に近い症状が表れた時には軽視することはできません。

社交不安障害の症状の表れ方は人によって様々なので一緒くたにすることは難しいですが、混同されがちなあがり症との違いは以下のようにまとめることができます。

あがり症社交不安障害
  • その状況にさらされる直前に強い不安を感じる
  • 話し始めると意外にも不安がおさまっていく
  • 話し終えた後は気持ちが楽になる
  • 不安に慣れることが可能
  • 特定の場面で症状が表れることが多い
  • 人前で話すという経験不足に起因するところがある
  • その状況にさらされるずっと前から強い不安を感じる
  • 話し始めても不安がおさまらず絶えず不安がつきまとう
  • 話し終えた後は恥ずかしさがこみあげる
  • 不安に慣れずむしろ過敏になってしまう
  • あらゆる場面で症状が表れることが多い
  • 人前で話す経験があっても発症するところがある

あがり症から社交不安障害にならないための予防策

冒頭にも社交不安障害の前段階としてあがり症の存在があることを話しましたが、では、あがり症から社交不安障害にならないためにはどうしたらいいのでしょうか。

社交不安障害の直接的な原因は分かっていませんが、生まれ持った気質的なもの、育ってきた環境的なもの、そしてこれまで生きてきて身についた経験的なものが相互に作用し合って発症しているという見方が有力です。

そのため、日常的に身体が不安を感じやすい状態になっていればお薬を処方して、不安に対する過敏性を緩和しようとしますし、環境や経験的なものが大きく影響してモノの見方にズレや歪みがあれば、心理療法を用いてその見方を修正しようとします。

社交不安障害の特徴は社会参加に影響を及ぼすほどの回避行動と日常生活に支障をきたすほどの予期不安なので、あがり症の人がこの段階にならないように予防策を講じなければいけません。

あがり症は、あがりやすい状況に遭遇した時に条件反射のように「あがってしまう癖」のようなものであり、その癖が悪さをしているという見方ができます。

この癖を改善できればあがり症が重症化し慢性化することはありません。また社交不安障害へと発展することもないでしょう。

「あがる」という現象は人間が生まれ持った本能的なものなので、あがるということを感じたことがあれば脳が正常に働いている証でもあります。

しかしその一方で「あがる」という現象があるがゆえに社会生活を営む上で苦しんでしまうのも事実です。

「自尊心を守るために人前で恥をかきたくない」、「社会的な成功を望むためにプレゼンに失敗したくない」、「他者から高い評価を得るために素晴らしいスピーチでなければいけない」など、このような願望を邪魔するかのごとく人はあがってしまうものです。

皮肉なことに、あがらないようにあがりを抑えようと思えば思うほど人はあがりやすくなってしまいます。

そしてあがり症が重症化し慢性化することで、行動的に見ても回避行動が表れやすくなり、ひいては「社交不安障害」へと繋がってしまいます。

ただ、あがり症は学習によって誤って身につけてしまった癖なので、あがってしまうメカニズムを理解することであがり症を改善へと導くことができます。

あがり症自体は病気ではなく、むしろ「自分はあがりやすい人」と受け入れることで状況が改善していくケースもありますので、「あがり症」という言葉に固執することなく、あがりやすい癖を改善していく気持ちが良い結果に結びつくのではないかと思います。

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