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不安障害で考える「障害」という言葉について

「障害」とは何か。障害をテーマにした書き物はこの世に数え切れないほどあり、そして書き手一人ひとりに違った視点や考え方があります。

障害には目に見える障害もあれば見えづらいものもあります。さらには生まれつき障害を抱えてしまう先天性のものから、生まれた後に不慮の事故などに遭ってしまい障害を抱えてしまう後天性のものがあります。

不安障害という名称から不安障害もまた障害として考えられる側面もありますが、DSM-5になってからは不安障害に加えて不安症という言葉が併記されるようになり、ニュアンス的には病気であり、さらに言えば治療可能な病気という印象が強まったと思います。

また名称を決めている日本不安症学会が発表している言葉を借りれば、障害という言葉を用いると一度なってしまったらもう治らない非可逆的なものとして誤解されかねないということを懸念しているので、今後の流れとしても不安障害ではなく不安症という言葉が増えていくかと思います。

ただそうは言っても、これまで不安障害という言葉を用いてきた背景には、不安障害という言葉通り、不安を主体として引き起こされた症状によって社会的に何かしらの不利益を被り、また社会参加するうえで大きな障害になっているという、機能的な部分での障害だけではなく壁や隔たりというところで障害があることを示唆するためもあるような気がします。

今回は不安障害という視点から、不安障害をはじめとした心の病の障害について、そしてその言葉の持つ意味について考えてみたいと思います。

障害の定義について

障害を理解するうえで障害とは一体何か。その定義について知る必要があります。

障害の定義については、世界保健機構(WHO)が定めた国際障害分類というものがあります。

この分類については1980年に発行され、ICIDH(International Classification of Impairment, Disabilities and Handicaps)と呼ばれています。

図を見てもらうと分かりやすいですが、障害を「機能・形態障害(impairment)」、「能力障害(disability)」、「社会的不利(handicap)」の3つのレベルで捉え、元の部分である疾患・変調が原因となって機能・形態障害が生じ、それから能力障害、さらには社会的不利を起こすという一方通行の矢印で示します。

具体的な例を示すと次のようになります。

例えば、目(視力)に機能障害があったとします。機能障害があることで次に考えられるのは、ボールペンやサインペンで書かれた文字を読むことができない、あるいは道路標識や信号が見えない、といった能力障害が起こります。

そして能力障害があることで、点字で書かれていない本を読むことができず情報が限られてしまったり、標識や信号が見えないことで車を運転できず職業選択を狭めてしまったり、目が見える人と比べると社会的な不利を被りやすくなるのです。

ただこのような一方通行の図式は、時代の流れとともに変わり、障害に対する理解や研究が進んだことでWHOは2001年にその改訂版としてのICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)を発表します。

ICIDHでは障害が持つ負の側面を主体として考え、かつ断面的に分類していくような捉え方をしていましたが、ICFでは障害に関与する全ての因子が影響し合っているという相互関係として捉えられています。また「機能・構造障害」が「心身機能・構造」、「能力障害」が「活動」、「社会的不利」が「参加」に変わり、新たに「環境因子」と「個人因子」、そして「健康状態」が加えられ、障害が個人だけの問題だけではなくより広い範囲で考えられるようになっています。

そして現在では障害者基本法で定められた障害者だけではなく、何かしらの精神疾患で社会参加が難しくなっている人のアプローチを考える場合の時にも、このICFの図を用いることが多いです。

不安障害にみる障害とは何か

冒頭でも、不安障害は言葉通りに不安を主体として引き起こされた症状によって社会的に活動や参加が難しくなるということを言いましたが、ただ実際のところは欧米で使われる診断名Anxiety disorderの和訳として「障害」が使われたと見ていいでしょう。

そのため、精神障害者保健福祉手帳や障害年金の時に使われる精神障害という言葉がありますが、こちらの「障害」にあたる英訳は「disability」なので、不安障害で使われる「障害」にあたる英訳は「disorder」とは、また意味合いが異なっていることが分かります。

ゆえに原則的には不安障害だけの診断で障害年金が受給されることはありません。この点に関して実態を知るために不安障害のひとつである社交不安障害当事者をメインにアンケートを実施しましたが、概ね予想通りの結果でした。

ただ不安障害を抱えている人の中には外出が困難になっていたり、社会参加が出来なかったりする人が一定数いることは事実です。さらには不安障害によって学業を中断せざるをえなかったり、仕事を辞めざるをえなかったりする人もいらっしゃいます。

またケースバイケースではありますが、当事者の中には経済的な負担を強いられ、事情を考えれば障害年金を受給するにあたいする方もいるのに、原則的には不安障害だけの診断では受給できないため、なおのこと人生の質を低下させてしまっている状況が見受けられます。

ところで、DSM-5を参考に不安障害に含まれるものとしては、パニック障害、全般性不安障害、社交不安障害、分離不安障害、広場恐怖症などが挙げられます。

その中でパニック障害は比較的馴染みのあるものだと思いますが、さきほど不安障害は人生の質を低下させかねないことを言いましたが、必ずしもそうではない場合もあり、不安障害のひとつであるパニック障害という病気を抱えながらも上手に日々の生活を営んでいる人もいるという例をご紹介したいと思います。

現オリックスの小谷野栄一選手が日ハム在籍時にパニック障害を患っていたことは有名な話です。打席に立つのがプロ野球選手の仕事でもあるのに、その打席にさえ立つず、バッターボックスに立った瞬間嘔吐してしまうこともあり、一時は引退の危機に追い込まれていました。

しかしそんな彼を救ったのが、当時日ハムの二軍コーチで現在オリックスで監督を務めている福良淳一監督だったのです。

福良監督(当時二軍コーチ)は、パニック障害を抱えた小谷野選手に対して、何度タイムをかけてもいいから、何回吐いてもいいから、バットを振らなくてもいいから、とにかく打席に立たせるようにして小谷野選手を懸命に支え続けました。

一見荒療治とも取れる行動を続けた結果、小谷野選手は一軍に上がり主力としても活躍し、打点王やゴールデングラブ賞を獲得する一流プレーヤーとなりました。

小谷野選手が日ハムからオリックスへ移籍するきっかけも、福良監督が居たからということで両者の間にある深い絆を感じさせられます。

もちろんこれは一例に過ぎないので、全ての人にあてはまるというわけではありません。

ただ不安障害であっても、その当事者の置かれている環境が「障害」を感じさせないものだと、不安障害は「障害」にならないということが言えるのではないでしょうか。

また付け加えて言えば、不安障害というのはあくまで診断名であり医師が適切な治療を施せるように付けた名称です。不安障害だから○○ができないと考えるよりも、どういう助けや支えがあると○○ができると考えた方が建設的なのかなと感じます。

障害とは社会参加するうえで大きな壁になるもの、足かせになるものと考える人も少なくないと思います。

しかし社会全体の許容範囲を広くすることで障害を持っていても障害と感じさせない状態を作ることは可能だと言えます。

その証拠に、治ることのない障害を抱えながらも社会参加している人は障害を個性と呼ぶことが多いように感じます。障害を肯定的に捉えているということでしょう。

ただ気をつけなければいけないのが障害を持っている人が全員、自身の障害を個性として捉えているわけではないということです。当たり前ではありますが、障害を個性として考える人もいればそうではない人もいます。

今回のテーマである心の病に関して言えば、見えづらい障害といっても過言ではないので、その障害との付き合い方を当事者や周囲の人も含めて考える必要があります。症状の質や頻度にもよりますが、場合によっては一生涯その病と付き合っていかなければいけない人もいます。

しかしながら当事者と周囲の関係性次第では、たとえ見えづらい障害であっても、個性として捉えられるようになるのではないかと感じています。そしてそのためにも身近な人に対して理解を促すことが求められるのではないでしょうか。

私自身は、不安障害というのは機能的な部分での障害だけではなく、社会的な部分で障害になりうる厄介な病気だと思っています。さらには社会的な部分での障害が、機能的なものに与える影響が大きく、回復が遅れてしまうという悪循環をもたらしてしまう傾向にあると思います。

ただ何事もそうですが、正しい理解と適切な対応策が広まることで当事者と周囲の溝が小さくなっていきますので、悪循環を断つためにもそういった知識が広まってほしいと強く感じます。

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