会食恐怖と嘔吐恐怖の違いは!?症状、原因の違いを分かりやすく

皆さんは外で誰かと一緒にご飯を食べることは好きですか。おそらく大半の人が「好き」と答えるのではないかと思います。
外食は今まで食べたことのない新しい料理に出会ったり、会食を通じてコミュニケーションをはかったりできる大切な役割を果たします。
しかしその一方で、心の病気が元になって誰かと一緒に外で食事することが困難になってしまう人もこの世には存在するのです。
困難になってしまう背景として多く見られる症状に会食恐怖や嘔吐恐怖があります。もしかして初めて聞く人もいるかもしれませんね。
両者ともに結果的には外食を困難にしてしまう要因にはなりますが、その性質や特徴には明らかな違いがあり、対応や治療法についても異なってきます。
今回は、会食恐怖と嘔吐恐怖の違いについて見ていきたいと思います。
会食恐怖とは

会食恐怖について簡単に説明すると、外食先で食事している姿を誰かに見られることが苦痛、出された料理を残してはいけないという極端な思考から見ず知らずの人が一堂に会するような場所での食事が困難になってしまう心の病気です。
会食恐怖は別名として「会食恐怖症」と呼ばれることもありますが、そもそも会食恐怖も会食恐怖症も正式な診断名ではなく、社交不安障害や限局性恐怖症に含まれるものとして考えられています。
限局性恐怖症とは特定の対象または状況に対して著しい恐怖と不安を感じることで、日常生活や社会活動が困難になってしまう心の病気です。限局性恐怖症を引き起こす対象または状況として生き物(例:クモ、蛇など)、自然環境(例:高所、嵐など)、状況(例:暗所、閉所など)、物体(例:針、血液など)が挙げられます。
会食恐怖の症状を呈する精神疾患はこの他にもありますが、一応ここでは社交不安障害としての会食恐怖の症状について詳しく見ていきます。
会食恐怖の症状は人によって様々ありますが、大まかに以下のような症状が表れることが多いです。
- レストランやカフェなどの公共スペースでの食事の機会に強い恐怖を感じる
- 周りの人やその場の雰囲気が気になって食事ができない
- 目の前に食事が運ばれてきた瞬間に「残さず食べなければいけない」という思考に陥る
- 過度の緊張から「気を失って帰れなくなるのではないか」という不安に駆られる
- 食事中に「吐くのではないか」、「腹痛になるのではないか」という強迫的な観念に襲われる
- 箸やフォークを持つ手が震える
- 会食を考えるだけで急な吐き気や下腹部の不快感、胃がムカムカする
このような症状が起きてしまう背景には自律神経系の交感神経の作用が大きく関係しています。
そして結果的に、繰り返し起こる吐き気や手の震えなど、そうした不都合な身体の反応によって、周囲の視線やその場の雰囲気から食事をすることが困難になってしまい、人が集まるような公共スペースでの食事を避けてしまう回避的な行動に繋がっていきます。
会食恐怖に陥ってしまう要因はいくつかありますが、その中でも学校給食に対するネガティブな体験ということが往々にしてあります。
担任の先生によっては給食を残すこと自体を良しとせず、全部食べるまで居残りさせたり、食べるのが遅いという理由で叱られたり、嫌いなものを無理やり食べさせられたりと、給食に対してあまりいいイメージを持つことが出来なかったというケースが多く見受けられます。
最近では、食物アレルギーが当たり前になってきていることもあり、給食で無理に食べさせるということはあまりないと思いますが、それでも「給食は残してはいけないもの」と教えられ、そのことに対して素直に従ってきた人ほど食べ物を残すことに罪悪感を覚えてしまい、自分で自分にプレッシャーを与えてしまうことで食事がトラウマになってしまっている可能性が高いです。
そのためか食事中は、「常に残してはいけない」、「早く食べなければいけない」、「いっぱい食べなければいけない」、「美味しく食べなければいけない」など、いわゆる「べき思考」に陥ってしまい、食事をする機会において緊張やプレッシャーから吐き気や身体の震えが起こり、会食恐怖の症状を呈していくのです。
また給食以外では、両親が共働きで食事はいつも一人、そのような家庭環境で育った人が初めて家族以外の人と一緒に食事をした時に、自分の食べ方が汚いと感じたり、あるいは食事のマナーを指摘されたりすることで、「食事する姿を誰かに見られたくない」という思いが芽生えることもその要因のひとつになります。
もちろん学校給食のネガティブ体験や、食事の仕方やマナーに対する指摘などがあっても、会食恐怖にならない人もいます。
そのため当事者の生まれつきの気質、環境、文化的背景などが相互に関係しており、こうした体験はあくまでも会食恐怖の症状を形成する要因のひとつということなのです。
嘔吐恐怖とは

簡単に嘔吐恐怖について説明すると、自分が嘔吐すること、他者が嘔吐することなど、吐くという行為に対して恐怖や不安を感じてしまい、そのため嘔吐してしまう可能性がある場所、例えばバスや電車などの乗り物、病院、レストランなどに行くことが困難になってしまう心の病気です。
嘔吐恐怖は一種の恐怖症として考えられる傾向があり、学術的な文献が少ないものの、海外ではSpecific Phobia of Vomiting(SPOV)として、限局性恐怖症の一部に考えられています。
もちろん会食恐怖同様、こちらも「嘔吐恐怖症」と呼ばれることがしばしばありますが、嘔吐恐怖、嘔吐恐怖症ともに正式名称ではなく、限局性恐怖症やあるいはパニック障害に付随する症状のひとつとして考えられることが多いです。
嘔吐恐怖の症状は人によって様々ありますが、大まかに以下のような症状が表れることが多いです。
- 自分や他者が嘔吐する姿を極端に恐れる
- 細菌やウイルスに感染しそうな状況になるとパニック発作を引き起こす
- ドロっとしたものやネバネバしたものに恐怖を感じる
- 食事中に「吐くのではないか」という強迫的な観念に襲われる
- 嘔吐しそうな状況や場所を回避する
- 嘔吐しないよう食事の内容や服装に対して過剰なほど気を遣う
嘔吐恐怖に陥ってしまう要因は様々あると思いますが、嘔吐恐怖は限局性恐怖症のひとつと考えられることが多いので、嘔吐するという行為が恐怖感情と結びついてしまった何かしらのエピソードや体験が存在しており、それが引き金となっている可能性が高いです。
例えば、誰かが嘔吐している姿があまりにも強く印象に残ってしまい、それが原因となって嘔吐している姿に恐怖心を感じるようになってしまったケース。あるいは吐しゃ物を処理した際にノロウイルスなどの感染症にかかって辛い経験をしたことが過去にあり、それ以来、吐しゃ物を見るたびにその当時の辛さが想起され、もう一度感染するんじゃないかという不安に駆られるケースなどがあります。
どのようなケースにおいても、嘔吐や吐しゃ物そのものが恐怖や不安を引き起こすものになっているということです。また見方によっては、吐しゃ物に対して不潔であるという強い強迫観念が存在している場合もあるでしょう。
そして「吐いてしまったらどうしよう」という不安から、嘔吐するかもしれない場所を回避したり、本当は食べたいけれども、嘔吐しないようにあえて脂っこいものや辛いものを避けたりして、結果的には、特定の場所に行けなかったり、著しい体重の減少があって体力を失ったり、日常生活において支障が出てきてしまうのです。
事実、女優の仲里依紗さんが嘔吐恐怖症に苦しんだことをSNSで告白しており、仕事にも大きく影響しました。また、嘔吐恐怖ゆえに妊娠することさえ怖いと感じてしまう人もいて、明らかに人生の質を低下させてしまう厄介なものです。
会食恐怖と嘔吐恐怖の違いを理解する

会食恐怖も嘔吐恐怖もどちらも外食することを困難にさせるものです。しかし両者をよく知ると、その症状を引き起こしている要因が異なっていることに気がつくと思います。
会食恐怖であれば、「食事を残してはいけない」、「早く食べなければいけない」など、いわゆる「べき思考」に陥ってしまうことがひとつの要因としてあり、嘔吐恐怖であれば、自他問わず嘔吐している姿に対する恐怖がひとつの要因としてあります。
また会食恐怖を抱えている人の中には、自分や他者が嘔吐することに対しそれほど恐怖心を持っておらず、むしろ外食した際の出された食事を「残さず食べられるのか」、万が一残した時に誰かから指摘されて「恥ずかしい思いをするのではないか」ということに対する恐怖や不安が先にあります。
一方で嘔吐恐怖では、出された食事を残すことよりも、むしろ「嘔吐してしまうのではないか」ということに対して強い恐怖や不安を感じています。
何に対して恐怖や不安を感じ、その恐怖や不安を感じてしまう背景には何があるのか、それぞれに違いが見られるのであれば対処法や改善法というのは異なってくると言えます。
例えばですが、会食恐怖を改善していく為の方法として曝露療法(エクスポージャー法)という心理療法があります。
この曝露療法は、不安となっている場面や機会を回避するのではなく、あえて実際にレストランやカフェなどに行き、徐々に不安や恐怖に対する免疫力や許容力というのをつけていくというやり方で、段階的に恐怖を感じさせることが重要になります。
しかし嘔吐恐怖の場合では、嘔吐するシチュエーションや吐しゃ物に遭遇する状況を作り出すというのが容易なことではなく、段階的に恐怖を感じさせることが難しいため、いくら曝露療法だからといって、レストランやカフェなどの外食先に繰り返し足を運んでも、あまり効果が期待できないのです。
外食先であろうが自宅であろうが、嘔吐恐怖の恐怖対象は「吐くこと」や「吐しゃ物」であり、「食事を残すこと」や「食事姿を見られること」ではないからです。
そのため嘔吐恐怖を患っている人は漢方薬などのお薬を服用したり生活習慣を改善したりして、吐き気自体を起こりにくくし、「食事をしても吐き気を感じることがなかった」という安心感を得ることが大切になってくると言えます。
根本的に言えば、吐くかもしれないという不安が悪循環となって症状を悪化させていますので、この悪循環を断つように吐くことに対する許容力を身につけていくことが必要になっていきます。
今回、会食恐怖と嘔吐恐怖の違いについて見ていきました。
当事者の中には、会食恐怖もあれば嘔吐恐怖もあるタイプの方、あるいはどちらか一方を持っているタイプの方が存在します。
また嘔吐恐怖になってしまったせいで会食恐怖になってしまったケース、その反対のケースも十分に考えられます。
食べるという行為は生きる為に必要不可欠であり、それにまつわる病というのは心への負担が計り知れません。
当たり前のように食べることができる人にとってみれば、会食恐怖も嘔吐恐怖も似たようなものと思うかもしれませんが、当事者視点で見れば大きな違いが見てとれるのです。
心の病を生む背景に潜む原因を正しく理解し、そしてその違いを適切に捉えることによって、改善する為のプロセスを構築するのに役立ちますし、周りにいる人もどう接すればいいのか分かりやすくなります。
また当事者の人も適切な治療法を選択しやすくなることで、治療するうえで身体にかかる負担を軽減することもできます。
会食恐怖も嘔吐恐怖も恐怖対象が明らかになっていることが多いです。ひいてはその恐怖対象を当事者自身が理解し一歩を踏み出すことで、状況は徐々に変わっていくと思います。
変化の過程で色々な葛藤があるかもしれませんが、症状が良くなることを信じて治療に努めてほしいと思います。